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転職と恵子との別れ

新しいアパートでの恵子との濃密な関係だったが、それほど長いものではなかった。

その時の仕事に将来性を見出していなかった私は、いつしか新聞の求人欄を見るのが習慣になっていた。

そして、それが現実のものとなった。

恵子にも転職のことは話してあった。

恵子の反対はなかった。

転職が決まった後のある日、アパートに来た恵子に切り出した。

「転職すると離ればなれになるし、俺は独身寮に入るから今までのようにはいかなくなるよな」


「うん」


「これを機会に別れようか?」


「...」


恵子は無言のままだった。

恵子の顔を見ると、涙を流していた。


「その方がおまえのためにもいいんじゃないか?」


「いやだよ。絶対にいや!勝手に一人で決めないでよ。いやだよぉ!」


涙が止まらない。


恵子は足をばたつかせて、


「イヤ。イヤ、イヤ、イヤ~!」


「......」



少しの時間が流れた。



「分かったよ。もう別れるなんて言わないよ。」


「...うわ~ん、○○のばかぁ...!」


「でも、今までみたいには会えないんだぞ。それでもいいのか?」


「うん、分かってるよ...我慢する...」


恵子はなかなか泣き止まなかった。


なだめるのに時間が掛った。


**************************


数日後、レンタカーを借りて、恵子と出会ってから2度目の引っ越しをした。

引っ越しは恵子が手伝ってくれた。

大家さんに挨拶をして、敷金を返してもらった。

一年足らずの仮の住処だったので、損傷もなく100%の返金だった。

そして助手席に恵子を乗せて、転職先の独身寮に向かった。


2時間以上かかったのではないだろうか?

初めて通る道だったので、長く感じたのかもしれないが、いずれにしても私にしては初めて通る道だった。

引っ越し荷物をとにかく部屋に入れるのを優先した。

レンタカーを乗り捨て、恵子を駅まで送っていかねばならなかったからだ。

離ればなれになるというのに、恵子は良く働いてくれた。

恵子は、それが結婚への試練なんだと思っていたのかもしれなかった。





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