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六月---両親への紹介

引っ越し後、恵子は頻繁にアパートに出入りする。

その時、風来坊は恵子との結婚を決意していた。

しかし、あの日以来、正式のプロポーズは出来ずじまいだった。

ある日、先にアパートに来て料理を作っていた恵子。

私は、定時を1時間過ぎたころ退勤し、帰途についた。

アパートの灯りがついている。

(あぁ、そうだった)

定時前に紙礫が飛んできていた。

「今日、行くね。お料理作って待ってる!」

「ただいま」

「お帰りぃ」

恵子は台所で、何事が煮込んでいた。

おたまを置いて、抱きついてきた。

「どうした?」

「ううん。なんでもない」

(恵子は温もりが欲しかったようだった。)

そのまま、短めのディープキス。

部屋でラジオを聴いて待っていると、恵子が料理を運んできた。

二人で夕食を済ませ、いつものように布団の中へ。

恵子はスリップ姿だった。

恵子はスカートスタイルで出勤することが多く、スカートの下には必ずスリップを着けている、そんな女だった。


セックスの前に、ちょっとした会話をした。

「今週末、田舎に帰ってこようと思う」

「ふ~ん、何かあるの?」

「いや、特にないけど。良かったら一緒に来ないか?

「えっ、なんで?」

「お前をおやじとおふくろに紹介したいんだ。この人と結婚するつもりだって」

「...」

「日帰りになるけど、来てくれるか?」

行く!絶対、行く

そんな会話の後、裸になりセックスをした。

アパートに来る=セックスのような生活だった。

恵子が拒むことはなかった。


その夜、実家に電話をした。

お袋が電話に出た。

「なんだい?こんな時分に」

「うん、ちょっとね。今度の休みに帰るよ」

「あぁ、そう。泊まってくんだろ?」

「いや、今回は日帰り。」

「忙しいんだね。泊まってけばいいのに。」

「おやじとおふくろに会わせたい人がいるんだ」

「誰だい?」

「今すぐって訳じゃないんだけど、結婚しようと思ってる人」

「あらまぁ。そうかい。じゃ、楽しみに待ってるよ」





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当日、生憎の雨だった。

恵子の自宅の最寄り駅のホームで待ち合わせをした。

「おはよう。」

「天気悪いなぁ。こんな日に悪いな」

「ううん、平気」

二人で上野駅に向かった。そして在来線に乗り継ぎ実家のそばの駅に着き、タクシーに乗り込む。

「お袋に電話しておいたよ」

「お母さん、なんだって?」

「楽しみにしてるってさ」

「そう」

恵子は、少々緊張気味だった。

「大丈夫だよ。お前は俺が選んだ女なんだから」

「うん...」

実家についた。

タクシー料金を払って、傘をさして玄関に。

道路から玄関まで20メートル以上あった。

「ただいま」

「おかえり。さぁ、中に入って。こんな日に悪かったね」

客間に通され、お茶を出してくれた。

「これが俺の実家。田舎の家だからさ、部屋数は多いよ」

「広いよねぇ。八畳間が普通にあるんだもの。縁側があるっていいよね」

「広くて天井が高いから夏は涼しいけど、冬は寒いよ」

お茶を飲みながらそんな会話をしていると、おやじとおふくろが入ってきた。

「いらっしゃい。」

「はじめまして、××恵子です。○○さんとおつき合いさせて頂いています」

「こんな田舎によく来てくれたねぇ。」

「私、田舎大好きですから。田舎に来るとほっとします」

「あらぁ、そりゃ良かったねぇ」

などと、次第に打ち解けた会話になっていった。


頃合いを見計らって、

「おやじ、おふくろ。俺、この人と結婚しようと思ってるんだ。」

「うん、分かった。お前はお前が決めた人と結婚すればいいよ」

長男ではない強みか、こんな簡単な会話であっけなく両親の承諾をもらえた。

恵子はちょっと、拍子ぬけだったようだ。


タクシーを呼んだ帰り際、

「またおいでね。今度は泊まりでゆっくりおいで」

「ありがとうございます。またお邪魔します。」

そんなことで帰途についた。


タクシーの中で、

「気に入ってもらえたのかな?」

「勿論だよ。気に入らなかったら、お袋が”泊まりで”なんて言わないよ」

「良かったぁ。お父さんとお母さんに気に入られなかったら、どうしようって」

「だから、気に入ってもらえたから。安心して」

「うん」

そんな六月の一日があった。


その後、時々は恵子を連れて泊りがけで帰省していた。

それ以降、恵子は実家では私の“許婚(いいなずけ)”になっていた。


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