恵子の中の別の男
バイク事故の一件が納まった後だったと思うが、その時期は定かではない。
恵子はテニスクラブに通っていた。
ある時、恵子がそのテニスクラブに来て欲しいと言い出した。
仕事帰りの喫茶店で、恵子とこんな会話があった。
「明日、空いてる?」
「うん?何かあるの?」
「うん。明日、○○にある××テニスコートに来てくれない?」
「いいけど。なんで?俺はやらないよ。」
「会わせたい人がいるの」
「誰?」
「内緒!」
「まぁ、いいか。いいよ、行くよ」
「じゃ、明日ね」
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恵子はテニスクラブに通っていた。
ある時、恵子がそのテニスクラブに来て欲しいと言い出した。
仕事帰りの喫茶店で、恵子とこんな会話があった。
「明日、空いてる?」
「うん?何かあるの?」
「うん。明日、○○にある××テニスコートに来てくれない?」
「いいけど。なんで?俺はやらないよ。」
「会わせたい人がいるの」
「誰?」
「内緒!」
「まぁ、いいか。いいよ、行くよ」
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翌日、恵子のメモを片手にそのテニスクラブが練習しているテニスコートに出掛けた。
恵子は、10数名の男女の中で、フォアハンド、バックハンドなどのストロークで汗を流していた。
恵子の練習が一通り終わり、別の女性がコートに入った。
恵子はコート脇のベンチのそばで、背の高い男性と立ち話をしていた。
恵子は私に気づいていたようだった。
恵子と会話をしていた男性が振り返って恵子と何事か話しをしながら、私の方を見ていた。
その後、恵子はタオルを取って汗を拭っていた。
その男性は、別のテニスボーイと会話を始めた。
私は手持ち無沙汰もあって、恵子をちら見しながら、単行本を読み始めた。
「坂の上の雲」
今、流行の歴史小説である。
その頃の私が読むものは、純文学から歴史物に徐々に変わってきていた。
安アパート住まいの私の部屋には、テレビがなかった。
ラジオが唯一の情報源だった。
独り暮らしの私には、読書する時間が十分にあった。
本棚には、司馬遼太郎作品が日に日に増えていた時期だった。
一時間も経った頃だろうか?
練習を終えた恵子は、スウェットの上下にテニスシューズ姿。ラケットを胸の前に抱えて小走りで
現れた。
「お待たせ!」
「うん?...誰かに会わせてくれるんじゃなかったのか?」
「うん、もう会わせたよ」
「会ってないよ」
「さっき、あなたを見てたでしょ。あの人」
「背の高い人だよね?」
「うん」
「あの彼がどうかしたの?」
「私が片思いだった人」
「ふ~ん...」
「何にもないよ...何にもなかったんだからね!」
(そんなに一生懸命にならなくても...)
「何が?」
「キスしたこともないし、腕を組んだこともないよ。私が一方的に好きだっただけ」
「...」
「一度デートしたことがあるけど、何もなかったの。好きな人がいたみたい。それだけ」
「ふ~ん」
(その彼は、背が高く女好きのする顔をした優男だった。こんな男がもてるんだろうな)
「で、今日は何がしたかったの?」
「彼にあなたを紹介したかったの」
「なんで?」
「真剣におつき合いしている人がいますって」
「ふ~ん。それで、用はすんだの?」
「うん」
「ふ~ん」
そんな会話があった。
なぜ、恵子がそんなことをしたのか良く分からなかった。
自分が思いを寄せていることで、その彼が他の女性との恋愛に踏み切れていないのではないか?
そんなことを思いやったのかもしれない。
「私にはもう他に好きな人がいますから、気兼ねなくその方と向き合って下さい」
と、彼への思いに決別を告げたのかもしれなかった。
細かいことは分からなかった。
しかし、恵子はそれで踏ん切りがついたようだった。
それからしばらくして、恵子はテニスクラブを辞めた。
そういえば、恵子もこんなフリフリのアンダースコートをはいてたな。
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恵子は、10数名の男女の中で、フォアハンド、バックハンドなどのストロークで汗を流していた。
恵子の練習が一通り終わり、別の女性がコートに入った。
恵子はコート脇のベンチのそばで、背の高い男性と立ち話をしていた。
恵子は私に気づいていたようだった。
恵子と会話をしていた男性が振り返って恵子と何事か話しをしながら、私の方を見ていた。
その後、恵子はタオルを取って汗を拭っていた。
その男性は、別のテニスボーイと会話を始めた。
私は手持ち無沙汰もあって、恵子をちら見しながら、単行本を読み始めた。
「坂の上の雲」
今、流行の歴史小説である。
その頃の私が読むものは、純文学から歴史物に徐々に変わってきていた。
安アパート住まいの私の部屋には、テレビがなかった。
ラジオが唯一の情報源だった。
独り暮らしの私には、読書する時間が十分にあった。
本棚には、司馬遼太郎作品が日に日に増えていた時期だった。
一時間も経った頃だろうか?
練習を終えた恵子は、スウェットの上下にテニスシューズ姿。ラケットを胸の前に抱えて小走りで
現れた。
「お待たせ!」
「うん?...誰かに会わせてくれるんじゃなかったのか?」
「うん、もう会わせたよ」
「会ってないよ」
「さっき、あなたを見てたでしょ。あの人」
「背の高い人だよね?」
「うん」
「あの彼がどうかしたの?」
「私が片思いだった人」
「ふ~ん...」
「何にもないよ...何にもなかったんだからね!」
(そんなに一生懸命にならなくても...)
「何が?」
「キスしたこともないし、腕を組んだこともないよ。私が一方的に好きだっただけ」
「...」
「一度デートしたことがあるけど、何もなかったの。好きな人がいたみたい。それだけ」
「ふ~ん」
(その彼は、背が高く女好きのする顔をした優男だった。こんな男がもてるんだろうな)
「で、今日は何がしたかったの?」
「彼にあなたを紹介したかったの」
「なんで?」
「真剣におつき合いしている人がいますって」
「ふ~ん。それで、用はすんだの?」
「うん」
「ふ~ん」
そんな会話があった。
なぜ、恵子がそんなことをしたのか良く分からなかった。
自分が思いを寄せていることで、その彼が他の女性との恋愛に踏み切れていないのではないか?
そんなことを思いやったのかもしれない。
「私にはもう他に好きな人がいますから、気兼ねなくその方と向き合って下さい」
と、彼への思いに決別を告げたのかもしれなかった。
細かいことは分からなかった。
しかし、恵子はそれで踏ん切りがついたようだった。
それからしばらくして、恵子はテニスクラブを辞めた。
そういえば、恵子もこんなフリフリのアンダースコートをはいてたな。
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